おいしい紅茶とは何か
1.おいしい紅茶とは何か
去る5月24日に開催された東京大学五月祭での講演の中で、「おいしい紅茶とは何か」というテーマについてお話させていただきました。それをもとに何回かに分けて、ジークレフでは紅茶のおいしさ、紅茶の淹れ方をどのように考えているかについて、まとめてみたいと思います。
なお、これは科学的に厳密に構成した論考ではなく、あくまで経験から得られた概念をまとめたものです。
嗜好品(飲み物)のおいしさの要件
1.雑味がないこと。雑味があると、その雑味が大きな影響を与え、よい風味を楽しむことができない。
2.甘いこと。特に甘味に加え、酸味がともに備わっていると、たいがいおいしいと感じる。
3.2.に、苦味や渋み、辛みなどの、本来人間にとってネガティブな味わいが少しだけ混じると、味わいに奥行き、立体感が生じる。
4.3.にうまみが加わると、ネガティブな味わいが感じにくくなり、まろやかさが増す。雑味も感じづらくなる。(1.でもおいしいが、おいしさの〇が小さい。3.に至っておいしさの〇が大きくなる。)
5.香りがよいこと。4.に加えこれに嗅覚の要素が加わることによって、おいしさのバリエーションが飛躍的に高まる。
6.渋みや苦みなどのネガティブな味わいは、実はあとあとまで尾を引き、味わい、香りの余韻を強める効果があるので、同時に口中の香りを増幅する。
紅茶の場合は、酸味はあまりない上に、ネガティブな酸味もあるので、甘み、渋み、うまみと、香りが重要な要素と言えます。特に、上記の2.6で渋みが2回登場していますが、渋みという要素については、一般にはネガティブな味わいと認識されていることが多いので、次回以降でさらに掘り下げてみたいと思います。
結論から言うとこの渋みへの理解が、おいしい紅茶とは何か、そして紅茶をおいしく淹れることの重要な鍵になります。

2.おいしさの鍵 渋み
前項で、渋みがおいしさの鍵、そしておいしく紅茶を淹れる鍵でもあると述べました。
ここではまず、おいしさの鍵としての渋みについて、掘り下げてみましょう。
近年、付加価値の高い嗜好品として人気を博してきた飲み物には、赤ワイン、そしてウィスキーがあります。赤ワインはボトル1本で100万円を超えるものもありますし、グランヴァンと呼ばれるワインは当たり前のようにグラス単価で1万円以上します。
ウィスキーはこれに比べるとまだ手が届きますが、やはり蒸留酒の中では高価なお酒と言えるでしょう。世界的に評価の高まっているジャパニーズウィスキーも同様です。
さて、この2つのお酒の価値の源泉は何でしょうか。あくまで私見ですが、私はともにオーク樽での熟成を経た飲み物であることに要因があると思っています。オークのポリフェノールによる渋みが、価値を生み出しているのです。
なぜ渋みに価値があるか?それは前項で示したように、渋みが飲み物の味わいに奥行きを作り出し、加えて香りを増幅させる効果があるからです。心地よい渋みは口の中に比較的長時間残ります。そしてこの余韻が、同時に味わいや香りをも長時間感じさせてくれるのです。
余韻の豊かなワインを、人はスケールが大きいと言います。グランヴァンの細やかな渋みを感じたとき、飲み手はベルベットのような口当たりと表現します。このように、良質な渋みは、飲みものの味わいや香りを増幅させ、大きな満足度を与える働きがあるのです。
前項(おいしさの鍵 渋み)で掘り下げたように、渋み(良質な渋み)は、嗜好品たる飲み物に魅力を与える、おいしさの鍵であると私は考えています。しかし、渋みにはポジティブな渋みもあれば、ネガティブな渋みもあります。そして、ポジティブな渋みでも、量次第ではネガティブな渋みになってしまうこともあります。
ジークレフでは、多くの紅茶の抽出について、「熱湯で150�佞砲弔�、茶葉2gを使用し、5分間抽出する」ことをお薦めしています。大抵はFTGFOP1などの大きさの茶葉の場合ですが、この場合、ポジティブな渋みがほどよく抽出され、甘味も香りもよく感じられるからです。
ところで、もしこの条件で茶葉を2gではなく、3g、もしくはそれ以上投入したとしたら、甘味と香りはどうなるでしょうか?
実は、東大の講演会でこの問いを投げかけたところ、甘味、香りとも強く感じるという意見と、あまり感じられなくなるという意見に分かれました。
科学的に考えれば、甘味にせよ香りにせよ、分子が五感に訴えるのですから、茶葉量が増えれば、抽出される分子量が増え、甘味も香りも強く感じられるはずです。
しかし、実際に味わってみると、どういうわけか、甘味も、香りもさほど感じません。ただただ強い渋みだけが感じられ、飲みにくくなってしまいます。
科学的な予想と、実際に起こっている現象が異なっているのですから、これはひとつのパラドックスであると言えます。
さて、これは何が起こっているのでしょう。これもあくまで私見ですが、渋みが強いと感じた瞬間、人間の脳が感覚を遮断し、甘味や香りを感じないように作用しているのだと思います。以前脳科学者の小倉明彦阪大名誉教授にこの現象について質問したところ、「おそらく感覚遮断が起こっているのではないか」という答えを頂きました。
なぜ渋みを強く感じると、脳が好ましい味覚を遮断するのか?
これは全くの私見なのですが、きっと遠い昔、人間がまだ人間ですらなかったころ、ヒトは食べものを実際に食べてみて、食べられるか、食べられないかを判断しており、人間にとって毒となる恐れのある味覚を感じた時に、それをおいしいと感じて体に入れてしまわないように、この感覚遮断という現象が起こったのだろうと思っています。
ところで、これについてインターネットで調べてみると、苦味の強いコーヒーを飲んだあとに甘いケーキを食べると、甘味をさほど感じられなくなる現象について、「甘味と苦味の味蕾が競合しているので甘味が阻害される」という説明が出てきます。
しかしながら、この説明では嗅覚まで遮断されることは説明できないので、まだこの現象はきちんと科学的に説明されていないのかもしれません。私自身はまだこれをきちんと説明した文献に行き当たっていないので、もしご存じの方がいらしたらぜひご教授ください。
4.おいしい紅茶の淹れ方
前項(渋みのパラドックス)では、渋みが紅茶の味わいに与える影響についてみてきました。この現象を理解すると、もはや紅茶の淹れ方の本質は理解したも同然です。
結論:紅茶を美味しく淹れるコツは、渋みが感覚を遮断する限界の濃さで淹れる。
つまり、茶葉量を増やしたら渋いと感じる、その一歩手前の渋みの程度でお茶淹れを行えば、たいていの場合はうまく行きます。2煎目、3煎目も同じ考え方で一律に考えることができます。
こう言い切ると、もうどんな紅茶でも大丈夫!という気持ちになってしまうものですが、現実にはそんなに甘くはありません。現実の紅茶のほとんどは、何かしらの雑味(ネガティブな渋みや、苦味など)を持っているのです。
これらの雑味はノイズとなって、味覚を遮断してきます。特に多くの雑味は、短時間で茶葉量を増やす淹れ方をしたときに顕著にあらわれてきます。こうしたことから、どんな紅茶でもおいしく淹れられる淹れ方を経験的に紡ぎ出したものが、ゴールデンルールだと言えます。
しかし逆に考えれば、逆にある特定のつくりのよい紅茶であれば、ゴールデンルールに縛られずとも、より多彩な淹れ方で楽しめるはずです。抽出時間と茶葉量の組み合わせだけでなく、まったく別の淹れ方も可能になってくるのです。
ジークレフで時折推奨する、耐熱グラスによる抽出や、多煎抽出、淡茶は、そうした多彩な淹れ方のバリエーションです。このように、様々な雑味、そしてその原因を理解し、個々のお茶に沿った楽しみ方を提案するのも、テイスターのひとつの役割だと、ジークレフでは考えています。
お茶を知る > 淹れ方・楽しみ方 | - | trackbacks (0)2025.05.28 Wednesday
おいしい紅茶とは何か4 紅茶の淹れ方
前項では、渋みが紅茶の味わいに与える影響についてみてきました。この現象を理解すると、もはや紅茶の淹れ方の本質は理解したも同然です。
結論:紅茶を美味しく淹れるコツは、渋みが感覚を遮断する限界の濃さで淹れる。
つまり、茶葉量を増やしたら渋いと感じる、その一歩手前の渋みの程度でお茶淹れを行えば、たいていの場合はうまく行きます。2煎目、3煎目も同じ考え方で一律に考えることができます。
こう言い切ると、もうどんな紅茶でも大丈夫!という気持ちになってしまうものですが、現実にはそんなに甘くはありません。現実の紅茶のほとんどは、何かしらの雑味(ネガティブな渋みや、苦味など)を持っているのです。
これらの雑味はノイズとなって、味覚を遮断してきます。特に多くの雑味は、短時間で茶葉量を増やす淹れ方をしたときに顕著にあらわれてきます。こうしたことから、どんな紅茶でもおいしく淹れられる淹れ方を経験的に紡ぎ出したものが、ゴールデンルールだと言えます。
しかし逆に考えれば、逆にある特定のつくりのよい紅茶であれば、ゴールデンルールに縛られずとも、より多彩な淹れ方で楽しめるはずです。抽出時間と茶葉量の組み合わせだけでなく、まったく別の淹れ方も可能になってくるのです。
ジークレフで時折推奨する、耐熱グラスによる抽出や、多煎抽出、淡茶は、そうした多彩な淹れ方のバリエーションです。このように、様々な雑味、そしてその原因を理解し、個々のお茶に沿った楽しみ方を提案するのも、テイスターのひとつの役割だと、ジークレフでは考えています。
お茶を知る > 淹れ方・楽しみ方 | - | trackbacks (0)2025.05.27 Tuesday
おいしい紅茶とは何か3 渋みのパラドックス
前項(おいしい紅茶とは何か2)で掘り下げたように、渋み(良質な渋み)は、嗜好品たる飲み物に魅力を与える、おいしさの鍵であると私は考えています。しかし、渋みにはポジティブな渋みもあれば、ネガティブな渋みもあります。そして、ポジティブな渋みでも、量次第ではネガティブな渋みになってしまうこともあります。
ジークレフでは、多くの紅茶の抽出について、「熱湯で150�佞砲弔�、茶葉2gを使用し、5分間抽出する」ことをお薦めしています。大抵はFTGFOP1などの大きさの茶葉の場合ですが、この場合、ポジティブな渋みがほどよく抽出され、甘味も香りもよく感じられるからです。
ところで、もしこの条件で茶葉を2gではなく、3g、もしくはそれ以上投入したとしたら、甘味と香りはどうなるでしょうか?
実は、東大の講演会でこの問いを投げかけたところ、甘味、香りとも強く感じるという意見と、あまり感じられなくなるという意見に分かれました。
科学的に考えれば、甘味にせよ香りにせよ、分子が五感に訴えるのですから、茶葉量が増えれば、抽出される分子量が増え、甘味も香りも強く感じられるはずです。
しかし、実際に味わってみると、どういうわけか、甘味も、香りもさほど感じません。ただただ強い渋みだけが感じられ、飲みにくくなってしまいます。
科学的な予想と、実際に起こっている現象が異なっているのですから、これはひとつのパラドックスであると言えます。
さて、これは何が起こっているのでしょう。これもあくまで私見ですが、渋みが強いと感じた瞬間、人間の脳が感覚を遮断し、甘味や香りを感じないように作用しているのだと思います。以前脳科学者の小倉明彦阪大名誉教授にこの現象について質問したところ、「おそらく感覚遮断が起こっているのではないか」という答えを頂きました。
なぜ渋みを強く感じると、脳が好ましい味覚を遮断するのか?
これは全くの私見なのですが、きっと遠い昔、人間がまだ人間ですらなかったころ、ヒトは食べものを実際に食べてみて、食べられるか、食べられないかを判断しており、人間にとって毒となる恐れのある味覚を感じた時に、それをおいしいと感じて体に入れてしまわないように、この感覚遮断という現象が起こったのだろうと思っています。
ところで、これについてインターネットで調べてみると、苦味の強いコーヒーを飲んだあとに甘いケーキを食べると、甘味をさほど感じられなくなる現象について、「甘味と苦味の味蕾が競合しているので甘味が阻害される」という説明が出てきます。
しかしながら、この説明では嗅覚まで遮断されることは説明できないので、まだこの現象はきちんと科学的に説明されていないのかもしれません。私自身はまだこれをきちんと説明した文献に行き当たっていないので、もしご存じの方がいらしたらぜひご教授ください。
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おいしい紅茶とは何か 2 おいしさの鍵 渋み

前項で、渋みがおいしさの鍵、そしておいしく紅茶を淹れる鍵でもあると述べました。
ここではまず、おいしさの鍵としての渋みについて、掘り下げてみましょう。
近年、付加価値の高い嗜好品として人気を博してきた飲み物には、赤ワイン、そしてウィスキーがあります。赤ワインはボトル1本で100万円を超えるものもありますし、グランヴァンと呼ばれるワインは当たり前のようにグラス単価で1万円以上します。
ウィスキーはこれに比べるとまだ手が届きますが、やはり蒸留酒の中では高価なお酒と言えるでしょう。世界的に評価の高まっているジャパニーズウィスキーも同様です。
さて、この2つのお酒の価値の源泉は何でしょうか。あくまで私見ですが、私はともにオーク樽での熟成を経た飲み物であることに要因があると思っています。オークのポリフェノールによる渋みが、価値を生み出しているのです。
なぜ渋みに価値があるか?それは前項で示したように、渋みが飲み物の味わいに奥行きを作り出し、加えて香りを増幅させる効果があるからです。心地よい渋みは口の中に比較的長時間残ります。そしてこの余韻が、同時に味わいや香りをも長時間感じさせてくれるのです。
余韻の豊かなワインを、人はスケールが大きいと言います。グランヴァンの細やかな渋みを感じたとき、飲み手はベルベットのような口当たりと表現します。このように、良質な渋みは、飲みものの味わいや香りを増幅させ、大きな満足度を与える働きがあるのです。
お茶を知る > 淹れ方・楽しみ方 | - | trackbacks (0)2025.05.27 Tuesday
おいしい紅茶とは何か1 嗜好品(飲み物)のおいしさの要件
去る5月24日に開催された東京大学五月祭での講演の中で、「おいしい紅茶とは何か」というテーマについてお話させていただきました。それをもとに何回かに分けて、ジークレフでは紅茶のおいしさ、紅茶の淹れ方をどのように考えているかについて、まとめてみたいと思います。
なお、これは科学的に厳密に構成した論考ではなく、あくまで経験から得られた概念をまとめたものです。
嗜好品たる飲み物のおいしさの条件。
1.雑味がないこと。雑味があると、その雑味が大きな影響を与え、よい風味を楽しむことができない。
2.甘いこと。特に甘味に加え、酸味がともに備わっていると、たいがいおいしいと感じる。
3.2.に、苦味や渋み、辛みなどの、本来人間にとってネガティブな味わいが少しだけ混じると、味わいに奥行き、立体感が生じる。
4.3.にうまみが加わると、ネガティブな味わいが感じにくくなり、まろやかさが増す。雑味も感じづらくなる。(1.でもおいしいが、おいしさの〇が小さい。3.に至っておいしさの〇が大きくなる。)
5.香りがよいこと。4.に加えこれに嗅覚の要素が加わることによって、おいしさのバリエーションが飛躍的に高まる。
6.渋みや苦みなどのネガティブな味わいは、実はあとあとまで尾を引き、味わい、香りの余韻を強める効果があるので、同時に口中の香りを増幅する。
紅茶の場合は、酸味はあまりない上に、ネガティブな酸味もあるので、甘み、渋み、うまみと、香りが重要な要素と言えます。特に、上記の2.6で渋みが2回登場していますが、渋みという要素については、一般にはネガティブな味わいと認識されていることが多いので、次回以降でさらに掘り下げてみたいと思います。
結論から言うとこの渋みへの理解が、おいしい紅茶とは何か、そして紅茶をおいしく淹れることの重要な鍵になります。
お茶を知る > 淹れ方・楽しみ方 | - | trackbacks (0)2025.05.27 Tuesday
募集終了:5/16 製造スタッフ募集のお知らせ

TEA Market Gclefでは、ただいまスタッフを募集しています。紅茶の専門知識を学びたい方。私たちと一緒に働いてみませんか?向上心とやる気に満ちたあなたのご応募をお待ちしております。
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応募方法:
まずは下記までご連絡ください。面接の上、採用を決定させていただきます。
TEL 0422-21-4812 (月〜金/10:00-19:00受付)
担当 採用担当係まで
お店からのご案内 > 従業員募集について | - | trackbacks (0)2025.05.16 Friday