1900年刊行の茶業通鑑に掲載された「紅茶の製法」の抄訳

1900年に刊行された「茶業通鑑」という書物の紅茶の製法を、抄訳しつつ現代語にしてみました。百年前の日本人がまとめた紅茶生産の在り方は、実に興味深く、多くのことを教えてくれます。

原文はこちら
茶業通鑑
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/860659

抄訳はこちら
紅茶の製茶方法
この方法は著者の村山鎮が、可徳乾三の中国式紅茶製造法および、師匠である多田元吉の伝授した方法に、自分なりの知見を加え、編纂した方法で、まだ改善の余地があります。

萎凋
紅茶の製造に重要で研究すべきは萎凋です。
まず、摘採した生葉を渋紙か温布に広げて薄くし、日光にさらしつつ、上下に反復させ、握っても茶葉が弾力を失って茎が折れない程度になったときが適度な萎凋といえる。最も良いのは、指で生葉を触り、その感触によって萎凋の適度を測ることで、古いぼろきれに触るかのような触感なら最適です。これは、日々熟練してその加減を知ることでしか、体得できません。

太陽光と空気の力は、萎凋の際にはとても重要です。片方を暗室におき、(日光のあたる)片方を明るいところにおいて比べれば、明るいところでは、萎凋の速さは暗室の半分以下で済みます。日光が入らない時も空気の流通をよくすれば、萎凋は速やかにすすみます。インドスタイルでは、雨の日、曇りの日にはこの方法をとります。

搓揉
萎凋が適切にできたら、搓揉場(揉捻室)に進みます。茶葉を袋に入れて口を固く結び、足で踏みます。7,8分揉んだら、手さばきをして玉ほぐしをします。次に10分から15分ぐらい足で揉むと、茶汁が染み出てきます。そうしたら、袋から出し、玉ほぐしをしてしばらく日光にさらし、水乾を行います。水乾が終わったら、また足で10-15分揉み、玉ほぐしを行い、第二回の水乾を行います。

このように、揉みは大変な作業で、均一さを保つのも難しいものです。8名の揉み手を用意して、7つの袋を与え、1名休憩させ、次々違う袋を揉むようにすれば、品質も均一になりやすく、労力も軽減できます。旧来のインドスタイルでは、足ではなく手で揉んでいましたが、この方法では身体に負担が大きく、巧拙や身体の強弱での品質の差が大きいので、足踏みがよいと思います。インドでは、蒸気機関による搓揉器があり、一日八百貫目の生葉に完全な揉捻を施すといいますが、わが国ではそのような大規模な茶園がなく、その導入は残念ながら経済的ではありません。

水乾
一回目の搓揉を終えると茶葉は、水乾に付されます。萎凋の時同様、茶葉を布に広げ日光にさらして水分を飛ばし、布を上下に反復させます。初回の水乾は15-30分が適切です。二回目に水乾は、茶葉を握りしめて手の中の茶葉から、水分が出ない程度が適度です。インドスタイルでは、水乾は行いません。

えん蒸
水乾が適度にできたら、桶や箱に茶葉を入れ、上から強く圧搾して、上に温布で覆って蓋をし、日光でえん蒸を助長する。曇り、雨の日は、布団などで覆ってえん蒸を助長する。(川崎注:発酵の工程ですが、現在の東方美人でいう、「悶」の工程と似ているかもしれません。)若い芽なら、2時間半から3時間半でえん蒸は適度に至りますが、老葉などでは、5,6時間以上かかることもあります。えん蒸は二回行うことで、平均を保つこともあります。こうすることによって、香りがよくなり、青臭みは抜けます。インドスタイルでは、水乾は行わないでも十分水分が抜け、発酵も速やかです。また、温室を設けて、雨天でも問題なく発酵が進むようにしています。

乾燥
えん蒸が終わったら、渋紙または温布に広げ、日光にさらして乾燥を平均化し、最後の3割程度で火入れによる乾燥を行います。すべて火入れで乾燥をするのは、経済性が悪いです。しかし、えん蒸での行き過ぎなどの恐れがある場合、最初から火力乾燥機を使うことにもメリットがあります。えん蒸での失敗は、腐敗に至るためです。インドでは、明治23年(この著書は明治33年刊行)より、火力乾燥機を導入し、一日380貫目を乾燥するという。

フラワリーペコーについて
フラワリーペコー(彩花白毫)は、別においしいわけでもないですが、これがたくさん入っていると高値で売れます。最初に芯芽だけ摘みとって別に製茶し、後で混ぜると最良品を得ます。仲買人は、この白芽を見るとそれだけで貴重だといって高く買います。しかし、だからといって、上述したように、芯芽だけ別に製茶するのは無駄といえます。ほかの茶葉と一緒に製茶して、黒い色に変わるとしても、これをオレンジペコー(黄橙白毫)と呼び、かえって香味が濃厚になります。萎凋のあと、搓揉の時に塵芥を振るい落とすときに、白芽も一緒に出てくるので、それを別に日光にさらし、また悪天候なら火入れをして乾燥し、塵芥を落としてから精製中に混ぜればよいでしょう。

ここまで

ペコーについては、市販の紅茶の本では「オレンジペコーのオレンジは、オレンジ伯爵に由来する」などという説を採用されていることもありますが、この著述を読む限り、フラワリーペコーはシルバーティップスを指し、オレンジペコーはゴールデンティップスを指すというのが、もともとの意味のようです。ペコーは白毫の中国語読み(ペイホー)からきているのは間違いありませんので、本来は芯芽を指します。

では、FTGFOPは?ファイン・ティッピー・フラワリー・オレンジ・ペコーでは、ティップとゴールデンの意味が被るのでは?という疑問が即座にわきますが、オレンジペコーは、英国、インドでは第2葉、ペコーは第3葉を指すなどということになっており、ここで概念の混同が起きていますので、そのせいでこんなことが起きたのでしょう。

お茶を知る > お茶の豆知識 | - | trackbacks (0)2016.07.02 Saturday

TRACKBACK URI
http://blog.gclef.co.jp/chanomi/sb.cgi/806
TRACKBACK