昨日は、テイスターが味覚や嗅覚を…

昨日は、テイスターが味覚や嗅覚をセンサーとして利用し、その味や香りをもたらす成分を測っているのだということを示しました。これはとても重要なことです。しかし、これだけでは、テイスターとしては万全とはいえません。いくら感覚が優れていても、その人の思うよさが、万人のよさとかけ離れていては、そのセンサーは役に立たないのです。

実はここでつまずいているテイスターはけっこういます。例えば渋すぎる紅茶を選んでしまう場合。テイスターは概ね渋みに強くなりがちなので、渋くはいりやすいという特性を軽視してしまうんですね。

では、何をもってよい紅茶とするか。実は「よい」の具体的な内容については、テイスター(もしくは会社)によって異なります。何をもって「より日持ちがする」とするかは、ある程度客観的に論じえるでしょうが、何をもって美しい色とするか、何をもってよい香りとするかは、結局ひとりひとりの主観で決まるからです。

大手の会社の中には、「よい」の基準を市場調査に求めているところもあります。ある程度の人数を無作為に抽出して、どの風味が最も好まれるかを調べ、それに近いものを提供しようと考えるのです。

ジークレフは今のところ市場調査はしていません。それぞれの産地のもつ個性をどれくらいよく実現しているかという尺度に従って紅茶を選んでいます。ニルギリは甘くて華やかな香りを湛えるもの、ミルクティ好きな方を念頭におきつつ、スウィートポテトのような香りの楽しめるもの、といった風に、それぞれの産地ごとにジークレフの理想に近い紅茶を選ぶようにしています。

上記のことからわかるとおり、紅茶のよしあしについての価値判断は、どこまでいっても客観性を持つことはできません。せいぜい、多数の主観による多数決が可能なぐらいです。ですから、テイスターも万人にとっての最高の紅茶を選ぶことは不可能です。できる最大限のことは、紅茶における「最大多数の最大幸福を追求する」ことぐらいなのです。

そのためジークレフでも、できる限りさまざまな産地から、多様な個性を持つ紅茶を入荷するように心がけています。そして、ひとりひとりのお客様と対話することによって、そのお客様ひとりひとりにとっての最高の紅茶を見つけること、それが万人にとってのおいしさを追求する、私たちの答えなのです。

お茶を知る > お茶の豆知識 | - | -2004.02.20 Friday