先日このコーナーで、おいしさとい…
先日このコーナーで、おいしさというのはひとりひとりが個別に感じる主観的な概念なのに、テイスターは万人にとってのおいしさを追求する仕事だと述べました。では、なぜテイスターとは、どうやって万人にとってのおいしさを見極めるのか、についての私の考えを述べたいと思います。(今日の文章は複雑でしかも長いです。)
命題1
ある産地で収穫されたA・B・Cという三つの紅茶をテイスティングしたとする。
そのとき、AがBよりよく、BがCよりよいとしたならば、必ずAはCよりもよい。
紅茶にはおのおのの個性があり、それぞれのよさがあるとはいっても、テイスターはこの命題を受け入れる必要があります。この論理を突き詰めていくと、比較可能な産地の紅茶であれば、必ず序列をつけることが可能になります。(この尺度は、ダージリンならダージリン、アッサムならアッサムという産地の中でのみ有効です。ダージリンとアッサムでは、良さを判断する価値基準そのものが違うので比較は成立しません。)
というわけで、ある産地の紅茶の中で優劣を論じることは「私」という主観を前提とすれば可能になります。次に、その主観を客観に近づけるためにはどうしたらよいか?
ある紅茶が「よい」といったとき、そこには必ず理由があります。
・嫌な味、香りがない。
・よりまろやかだ(=雑味がない)。
・より甘みがある。
・より香りがある。
・味のバランスがとれている。
・色が美しい。
・淹れ方を多少変えても、よりおいしくはいりやすい。
・上記の「よい」状態をより長く保ち続ける。
こうした尺度を念頭に置いたとき、もう一歩踏み込んで考えると、そこには科学的な根拠があるはずです。つまり、「甘みを担うAという成分が多い」とか、「香りを担うBという成分が多い」とかです。逆に「Cという風味があるからにはより日持ちがするはずだ」などという推論も、同様の理由から成り立ちます。味覚は個人的なものですが、その味覚に由来する科学的な根拠は、客観的にそこに存在します。テイスターの味覚や嗅覚、視覚は、味や香りから、そうした紅茶の持つ属性を推察することによって、主観を客観と結びつけることができるのです。
ですから時には、今おいしいAよりも、将来にわたってよりおいしくなるBを選ぶ可能性は、実際に存在します。それは、Aという紅茶を今おいしく感じさせてくれる成分aは、2ヶ月しか保持しない成分である、などという場合におこります。冒頭の命題で、「おいしい」ということばを使わず、「よい」と書いたのはそういう理由からです。
実は「よい」の具体的な内容については、テイスター(もしくは会社)によって異なります。何をもって美しい色とするか、何をもって味のバランスがとれているかは、結局個人の主観で決まるからです。大手の会社の中には、「よい」の基準を市場調査に求めているところもあります。私は市場調査をしませんので、自分の好みを大切にしながら、万人にとってのよさを想像するにとどめています。(ついでに私の好みを言わせて貰うと、それぞれの産地のもつ個性をよく実現している紅茶が大好きです。)
このようにして設定した基準に従って、最も「よい」紅茶を選べば(ブレンドの場合はつくれば)、多くの人にとってより「おいしい」と感じてもらう確率が高まります。最終的においしいと感じてほしい主体は「私」ではなく、実際に紅茶を買って飲むみなさんなのですから、そこに私がよさを押し付けることはできません。しかしその上で、より多くの人においしいといってもらえる紅茶を選び取ることができるかどうかが、テイスターの腕の見せ所なのです。
命題1
ある産地で収穫されたA・B・Cという三つの紅茶をテイスティングしたとする。
そのとき、AがBよりよく、BがCよりよいとしたならば、必ずAはCよりもよい。
紅茶にはおのおのの個性があり、それぞれのよさがあるとはいっても、テイスターはこの命題を受け入れる必要があります。この論理を突き詰めていくと、比較可能な産地の紅茶であれば、必ず序列をつけることが可能になります。(この尺度は、ダージリンならダージリン、アッサムならアッサムという産地の中でのみ有効です。ダージリンとアッサムでは、良さを判断する価値基準そのものが違うので比較は成立しません。)
というわけで、ある産地の紅茶の中で優劣を論じることは「私」という主観を前提とすれば可能になります。次に、その主観を客観に近づけるためにはどうしたらよいか?
ある紅茶が「よい」といったとき、そこには必ず理由があります。
・嫌な味、香りがない。
・よりまろやかだ(=雑味がない)。
・より甘みがある。
・より香りがある。
・味のバランスがとれている。
・色が美しい。
・淹れ方を多少変えても、よりおいしくはいりやすい。
・上記の「よい」状態をより長く保ち続ける。
こうした尺度を念頭に置いたとき、もう一歩踏み込んで考えると、そこには科学的な根拠があるはずです。つまり、「甘みを担うAという成分が多い」とか、「香りを担うBという成分が多い」とかです。逆に「Cという風味があるからにはより日持ちがするはずだ」などという推論も、同様の理由から成り立ちます。味覚は個人的なものですが、その味覚に由来する科学的な根拠は、客観的にそこに存在します。テイスターの味覚や嗅覚、視覚は、味や香りから、そうした紅茶の持つ属性を推察することによって、主観を客観と結びつけることができるのです。
ですから時には、今おいしいAよりも、将来にわたってよりおいしくなるBを選ぶ可能性は、実際に存在します。それは、Aという紅茶を今おいしく感じさせてくれる成分aは、2ヶ月しか保持しない成分である、などという場合におこります。冒頭の命題で、「おいしい」ということばを使わず、「よい」と書いたのはそういう理由からです。
実は「よい」の具体的な内容については、テイスター(もしくは会社)によって異なります。何をもって美しい色とするか、何をもって味のバランスがとれているかは、結局個人の主観で決まるからです。大手の会社の中には、「よい」の基準を市場調査に求めているところもあります。私は市場調査をしませんので、自分の好みを大切にしながら、万人にとってのよさを想像するにとどめています。(ついでに私の好みを言わせて貰うと、それぞれの産地のもつ個性をよく実現している紅茶が大好きです。)
このようにして設定した基準に従って、最も「よい」紅茶を選べば(ブレンドの場合はつくれば)、多くの人にとってより「おいしい」と感じてもらう確率が高まります。最終的においしいと感じてほしい主体は「私」ではなく、実際に紅茶を買って飲むみなさんなのですから、そこに私がよさを押し付けることはできません。しかしその上で、より多くの人においしいといってもらえる紅茶を選び取ることができるかどうかが、テイスターの腕の見せ所なのです。
お茶を知る > お茶の豆知識 | - | -2004.02.18 Wednesday